日常の喧騒からほんの少し距離を置きたくなる瞬間が、誰にでもあるのではないでしょうか。
仕事に追われ、時間に縛られ、情報が溢れる社会の中で、ふと「自分の時間を取り戻したい」と思うことがあります。
そんな思いが私の胸をかすめたのは、年が明けたばかりの穏やかな冬のある日でした。
新年という節目を迎えながらも、心の奥にどこか満たされない空白が広がっていたのです。
旅の目的地を考えていたとき、真っ先に思い浮かんだのが「スコータイ」でした。
スコータイとは、「幸福の夜明け」を意味するサンスクリット語から来た名前だと言われています。
その名の通り、ここは13世紀にタイ族が初めて王朝を築き、自らの文字や宗教、芸術を花開かせた場所。
まさにタイの文化的アイデンティティが形作られた原点です。
その歴史的重みと、どこか神秘的な雰囲気に導かれるように、私はスコータイへの旅を決意しました。
旅を重ねるたびに思うのは、本当に印象に残る場所とは、心に静かに染み入るような体験を与えてくれる場所だということです。
スコータイは、まさにそんな場所でした。
まるで「もう一人の自分」と静かに対話する時間を与えてくれるような、内省的で穏やかな旅。
この記事では、私が体験したスコータイの魅力を、できるだけ丁寧に、そして心を込めて綴っていきたいと思います。
Contents
スコータイ歴史公園の魅力

仏教遺跡と仏像
スコータイ歴史公園の魅力の一つに、美しい仏教遺跡と、心を打つ仏像たちの存在があげられます。
多くの仏像に共通するのは、静けさの中にある圧倒的な力。
見上げれば圧倒され、目を閉じれば心がほどける。
スコータイの仏像は、見るだけの対象ではなく、心に触れてくる存在です。
中でも、「ワット・マハータート」と「ワット・シー・チュム」は、この地を訪れるならぜひ足を運んでほしい、象徴的な場所です。
ワット・マハータート:アッタロット仏
「ワット・マハータート」は王朝の宗教的中心地であり、スコータイ最大級の寺院跡です。
荘厳な仏塔群が整然と並ぶ中、高さ約9メートルの座仏像の前で足が止まりました。
「アッタロット仏」です。
アッタロットとは「8つの姿を持つ仏」という意味があり、かつては複数の仏像と共に並んでいたとされています。
現在残っているのはそのうちの一体だけ。
それでも、細身の身体に柔らかな微笑みを湛えた顔立ちは、まさにスコータイ様式の優美さを象徴していました。
現地の方によると、この場所では昔、王が人々の安寧を祈って瞑想したと伝えられているそうです。
私はその話を聞き、思わず両手を合わせて静かに目を閉じました。
ワット・シー・チュム:プラ・アチャナ仏
「ワット・シー・チュム」では、高さ15メートル、重厚な表情を浮かべた座仏像「プラ・アチャナ」が、堂内の狭い空間に鎮座しています。
遺跡群の中でもひときわ異彩を放つこの巨大仏像は、かつてのスコータイ王朝の精神的な支柱だったと言われています。
高さ約15メートル、幅11メートルという堂々たる姿。
白い漆喰が残る身体に、時折吹き抜ける風が木々を揺らす音だけが響く静けさの中、仏の右手にだけ金箔が貼られており、まるで慈しみの心だけが永遠に輝いているようです。
見上げていると、自分の存在がいかに小さく、日常の悩みがいかに取るに足らないものか、ふと気づかされました。
朝焼けと夕焼けで変わるスコータイの絶景
この地を訪れるなら、ぜひ朝と夕の時間帯を見逃さないでください。
特に「ワット・サシー」は、その美しさが時間とともに劇的に変化する場所として知られています。
朝焼けを見るなら「ワット・サシー」
スコータイ歴史公園の中心にあるワット・サシー(Wat Sa Si)は、小さな島に建てられた仏塔と仏像が、美しい池に囲まれて佇む静かな寺院。
このロケーションが、朝焼けの時間帯に最も美しく輝きます。
見る場所と方向:
- 場所:ワット・サシーの外周の池の東側(東岸)
- 向き:西向き(池越しに仏塔を眺める位置)
ベストな時間:
- 午前5:30〜6:30ごろ(11月〜2月は特におすすめ)
ポイント:
- 池の水面に映る仏塔と空の色が幻想的
- 淡い紫やピンクに染まった空が、静寂と荘厳な空気を一層引き立てます
- 風が無い朝は、水鏡が完璧なリフレクションを見せてくれます
この時間帯は観光客も少なく、鳥の声や僧侶の読経が遠くに聞こえることも。
まさに「古都にタイムスリップしたような感覚」に包まれます。
夕焼けを見るなら「ワット・マハタート」
夕方になると、光は逆の方向から差し込み、遺跡群がシルエットとなって浮かび上がります。
おすすめのスポットは、ワット・マハタート(Wat Mahathat)周辺の池の西側です。
見る場所と方向:
- 場所:ワット・マハタートの西側にある池(サーン湖やその周辺)
- 向き:東向き(仏塔と空を同時に見る構図)
ベストな時間:
- 午後17:30〜18:30ごろ(季節により若干変動)
ポイント:
- 空がオレンジ、赤、群青と刻々と色を変え、仏塔や柱のシルエットが際立つ
- 遺跡全体が黒く縁取られたように見え、まるで絵画のような構図
- 水辺のベンチや芝生でゆっくり座って眺めるのがおすすめ
夕暮れ時のスコータイには、「古代の神々が再び目を覚ますような神秘性」があります。
空の色と遺跡の輪郭が重なった瞬間、「この景色をずっと心に残しておきたい」と強く感じるはずです。
自転車での散策
スコータイ歴史公園でぜひ試してほしいのが、「自転車での散策」です。
園内は広大ですが道はよく整備されており、自転車での移動がとても快適。
自由に好きなルートを選びながら、時間に縛られずに巡れるのが最大の魅力です。
自転車レンタルは簡単&リーズナブル
公園の入口付近にはレンタルサイクルショップがいくつもあり、観光客でも手軽に利用できます。
料金は1日あたり約70バーツ(日本円でおよそ300円)ほど。
身分証の提示だけで、予約不要で借りられるのも嬉しいポイントです。
レンタル時には、空気圧やブレーキなどを軽くチェックしておくと安心です。
自転車で広がる、心に残る出会い
舗装された道を自転車で走りながら、気になる遺跡があれば気軽に立ち止まり、静かな境内をひとり占めできる時間。
観光客の少ない小さな寺院では、苔むした仏塔や風に揺れる木々の音が、まるで自分だけの空間を演出してくれているようです。
道中、現地の子どもたちが通学のために自転車で駆け抜けていく様子を目にすることもあります。
スコータイの壮大な遺跡が、いまもこの町の暮らしの中に息づいている——
そんな瞬間に出会えます。
サイクリングのための準備・ポイント
- 開園時間前後に到着するのがおすすめ(気温が上がる前に行動を)
- 帽子や日焼け止め、水分は必携
- 小さなリュックに軽食や飲み物、マップを入れておくと便利です
- 走行中は後ろから来る乗り物や観光バスに注意(園内は広いですが一部車道と交わるところがあります)
スコータイ歴史公園への行き方

飛行機
バンコク〜スコータイ
最初のスコータイ旅行は、3泊4日の短期旅。時間が限られていたので、迷わず飛行機を選びました。
利用したのは「バンコク・エアウェイズ」。
スワンナプーム空港からスコータイ空港まで約1時間20分のフライトです。
飛行機の中は小さめですが、サービスがとにかく丁寧。
離陸してすぐ、軽食のサンドイッチとフルーツが配られ、ふかふかのシートに体を沈めて窓の外を眺めていると、あっという間に着陸態勢に。
驚いたのはスコータイ空港の雰囲気。
「空港ってこんなに可愛い場所だっけ?」と思うくらい、田園に囲まれた小さなターミナルは、南国リゾートのような造り。
緑に囲まれた通路を歩くと、旅の疲れがスッと取れるようでした。
スコータイ空港〜スコータイ歴史公園
空港からスコータイ歴史公園までは約40km、所要時間は車で約40〜50分です。
以下、主な移動手段をご紹介します。
シャトルバス
スコータイ空港はバンコク・エアウェイズが所有・運営しているため、同社の利用者向けに専用シャトルバスサービスが用意されています。
- 目的地:スコータイ新市街または旧市街(歴史公園近く)
- 所要時間:約40〜50分
- 料金:150〜200バーツ前後(航空券に含まれる場合もあり)
- 利用方法:空港到着ロビーのバンコク・エアウェイズカウンターで手配可能
シャトルはフライト到着にあわせて運行されており、乗り継ぎもスムーズです。
タクシーまたはチャーター車
より自由な移動を希望する方には、空港でのタクシー手配や、事前のチャーター車予約がおすすめです。
- 所要時間:約40分
- 料金目安:500〜700バーツ程度(片道)
- メリット:ホテルや遺跡など目的地へ直行可能。複数人での利用なら割安に。
空港にはタクシー手配窓口がありますが、繁忙期は事前予約が安心です。
レンタカー
スコータイ空港には小規模ですがレンタカーサービスもあります。
希望の車種やプランを確保するため、事前に予約することをおすすめします。
「ミート&グリート」方式のレンタカーサービスもあり、事前に予約しておけば、到着時にスタッフが出迎え、レンタカーですぐに出発することも可能です。
- 所要時間:40分前後
- 注意点:タイは左側通行ですが、地元の運転マナーに慣れていないとややハードル高め
- 料金目安:1日あたり1000バーツ前後
いろいろな選択肢があるので、時間や人数、予算に合わせて選んでみてください。
注意点としては、シャトルバスやタクシーは、行き先が旧市街(歴史公園周辺)か新市街かで降車場所が異なるため、予約時や乗車時に伝えておくと安心です。
長距離バス
バンコク〜スコータイ
バンコクにはいくつかの長距離バスターミナルがありますが、スコータイ行きのバスが発着するのは「モーチット・マイ」と呼ばれる北バスターミナル(Mo Chit Bus Terminal)です。
BTSモーチット駅やMRTチャトゥチャック公園駅からタクシーで約10分ほど。
バスターミナル内にはチケットカウンターがずらりと並んでいて、英語も通じるブースが多いので安心です。
チケットの購入と料金目安
スコータイ行きのバスは朝から夜まで1〜2時間おきに運行しています。
主要なバス会社には以下のようなものがあります:
- Win Tour(ウィントゥア)
- Transport Co. Ltd.(政府運営の路線)
- Phitsanulok Tour など
料金はバスのクラスによって異なりますが、
- 快適な「VIPバス」で約400〜600バーツ(約1,700円〜2,500円)
- スタンダードクラスで約300〜400バーツ程度です。
VIPバスは座席がリクライニングで広く、ブランケットや軽食、水のサービスもあります。
深夜便でも車内は比較的静かで、ぐっすり眠れるので、朝には元気な状態でスコータイに到着できます。
所要時間と到着後
所要時間は約6〜7時間。
道路状況によってはもう少しかかることもありますが、深夜便を使えば翌朝早くから観光をスタートできます。
スコータイバスターミナル〜スコータイ歴史公園
スコータイでは、「スコータイ・バスターミナル(New Sukhothai Bus Terminal)」に到着します。
ここからスコータイ歴史公園までは約12kmほど。
到着後は以下の方法でアクセスできます:
- トゥクトゥク(交渉制・約150〜200バーツ)
- ソンテウ(乗合トラック/本数が少ないが安価)
朝の涼しい時間帯に到着して、そのまま遺跡巡りへ——というのもこのルートの魅力です。
注意点としては、バンコクのバスターミナルが広いので、早めの到着がおすすめ。
それからバスの中は冷房が強いこともあるので、羽織ものを持っていくと安心です。
鉄道+バス
移動手段を選ぶとき、かつての私のように「できるだけ早く」だけで決めてしまうのも悪くありません。
でも、もし時間に余裕があるなら、鉄道とローカルバスを組み合わせた旅もおすすめです。
バンコク〜ピッサヌローク駅
実はスコータイには鉄道駅がありません。
なので、先ずはバンコクからピッサヌローク(Phitsanulok)駅を目指します。
ここが、スコータイへ行く際の鉄道アクセスの拠点となります。
- 出発駅:バンコク・フアランポーン駅(Hua Lamphong Station)
- 所要時間:約6〜7時間
- 運行本数:1日6〜8本程度(朝〜夜まで)
- 料金目安:
- 2等車(エアコン付き):約300〜400バーツ
- 寝台列車(夜行):約500〜800バーツ
列車のチケットは予約をしておくと、席の確保ができて安心です。
事前に駅でチケットの購入もできますし、日本からオンライン予約も可能です。
また夜行列車を利用すれば、寝ている間に目的地へ着くことができます。
リクライニング座席や寝台個室(ブランケット付き)もあるので、快適に移動できますよ。
ピッサヌローク駅〜バスターミナル
ピッサヌローク駅に到着したら、そこからスコータイ行きのローカルバスに乗れる、バスターミナル(Bus Terminal 1)へ移動します。
- アクセス方法:駅前でトゥクトゥクまたはタクシーを利用
- 所要時間:約10分
- 料金の目安:50〜80バーツ程度(交渉制)
ピッサヌローク〜スコータイ
ピッサヌロークのバスターミナルから、いよいよスコータイへ向かいます。
- 所要時間:約1時間〜1時間半
- 料金目安:約60〜100バーツ
- バスの種類:ローカルバスまたはミニバン
- 運行間隔:およそ1時間ごとに出発(朝〜夕方)
スコータイバスターミナル〜スコータイ歴史公園
到着するのはスコータイの「New Sukhothai(新市街)」にあるバスターミナル。
ここからさらにスコータイ歴史公園(旧市街)まで約12kmほどあります。
歴史公園へは、トゥクトゥクやソンテウ(乗合トラック)を使って20〜30分程度。
トゥクトゥクは150〜200バーツが相場です。
スコータイ歴史公園のベストシーズンはいつ?

乾季(11月〜2月)
私が初めてスコータイを訪れたのは、ちょうど1月中旬のこと。
乾季の半ばで、昼間は25〜30℃前後。
朝晩は20℃を切ることもありましたが、空気がカラッとしていてとにかく快適!
朝7時頃に公園を歩き始めると、ひんやりとした風が肌を撫で、仏塔のシルエットが朝もやの中から少しずつ浮かび上がってきました。
しかも、乾季中の11月はスコータイ最大のお祭り「ロイクラトン祭り」が開催される時期。
運よくこのイベントに合わせて滞在できると、また違った思い出ができるかもしれません。
夜になると、遺跡群が幻想的にライトアップされ、舞踊や伝統音楽のパフォーマンスを見ることもできるそうです。
歴史的な背景を持つ舞台で、生きた文化が繰り広げられる様子は、他では味わえない感動になるでしょう。
唯一の注意点としては、この時期は観光客が多く、ホテルや交通機関の予約が取りづらいこと。
できるだけ早めに計画を立てるのがおすすめです!
暑季(3月〜5月)
タイの一年で最も暑い時期で、日中の気温は40℃近くなります。
でも、この時期ならではの魅力もあるんです。
例えば、空の青さ。湿気が少なく、雲一つない晴天が広がる日は、レンガ色の遺跡がまるで浮かび上がるかのように美しく映えます。
特に写真好きの方には、この時期はおすすめ。
人も少ないので、人気スポットでも待ち時間ゼロで撮影できます。
暑い時間を避けるために朝6時台から観光をスタートし、昼は涼しいカフェで休憩。
夕方になって再び公園へ。
工夫次第で、有意義な時間が過ごせるでしょう。
雨季(6月〜10月)
雨季のスコータイにはまだ直接行ったことがありませんが、現地で働くガイドさんやカフェのスタッフと話す中で、「この時期のスコータイも悪くないよ」と何度も聞きました。
確かに、午後にスコールが来ることも多く、外出のタイミングが読みにくいのは事実。
でもその分、雨上がりの遺跡はしっとりとした趣があり、緑のコントラストがとても鮮やかになるそうです。
「雨音を聞きながら、仏塔を眺めるのも乙だよ」 そう言って笑っていた現地の青年の言葉が、今でも印象に残っています。
観光客が少ないため、自分だけの空間で歴史と向き合える贅沢な時間が過ごせるのもこの季節ならでは。
ぬかるんだ道もあるので、滑りにくい靴やレインコートは必須ですが、それさえ準備すれば、きっと特別な旅になるはずです。
結論としては、ベストシーズンはやはり乾季(11月〜2月)。
天候が安定していて、ロイクラトンなど特別なイベントも楽しめます。
ただ、暑季の澄み渡る空や、雨季の静寂に包まれた遺跡も、それぞれにしかない魅力があるのも確か。
旅は“快適さ”だけではなく、“体験”の価値で決まるもの。
あなたが何を求めているかによって、最適な季節は変わるのです。
服装・持ち物・開演時間など注意事項

服装のポイント
動きやすく、風通しの良い服装を
スコータイは1年を通して気温が高め。
日差しも強いため、半袖+長ズボンがおすすめです。
長ズボンは虫よけや日焼け防止にも役立ちます。
宗教施設では露出に注意
お寺の遺跡が多いので、肩を出すタンクトップや短すぎるパンツは避けましょう。
タイでは敬意を表す意味でも、きちんとした服装が望まれます。
履きなれた歩きやすい靴を
公園内はかなり広く、舗装されていない道や砂利道も多いです。
スニーカーやトレッキングサンダルなど、しっかり歩ける靴を選びましょう。
持って行くと便利なもの
- 軽食:食堂が限られているので、スナックなどがあると助かります。
- 帽子・サングラス・日焼け止め:遺跡は屋外中心で日陰が少なく、紫外線対策は必須。
- 飲み物:売店が少ない場所もあるため、水のペットボトルを持参すると安心。
- 虫よけスプレー:池や緑が多い場所では蚊が出やすいので対策を。
- 充電バッテリー:遺跡撮影にスマホやカメラを使うなら予備バッテリーが便利。
雨季(6月〜10月)に訪れる場合は、折りたたみ傘やレインコートもあると安心です。
開館時間と入場料
開園時間
開園時間は毎日午前6時30分〜午後5時30分(遅くとも5時頃までに退園するのが安全です)
一部エリア(主に中心部)は、特別なイベント時やロイクラトン祭りなどの期間中に夜間ライトアップが実施されることがあります。
このときは夜9時頃まで開放され、幻想的な雰囲気を楽しめます。
入場料
スコータイ歴史公園は、大きく分けて以下の4つのゾーンに分かれています。
- 中心部ゾーン(Central Zone)
- 北部ゾーン(North Zone)
- 西部ゾーン(West Zone)
- 南部・南東部ゾーン(South & Southeast Zones)
スコータイ歴史公園の入場チケット料金は、ゾーンごとに設定されていて、1ゾーンごとに大人100バーツ(約400円)です(2025年現在)。
チケットは、各ゾーンごとの入口で購入可能。
まれに、すべてのゾーンに入場できる「共通パス」が販売されることもありますが、常設ではありません。
おすすめの回り方

スコータイ歴史公園の広大な敷地内には多数の仏教遺跡が点在しており、効率よく巡るにはゾーンごとの特徴を理解しておくと安心です。
初めて訪れる方でも分かりやすいように、各ゾーンの見どころとおすすめの巡り方をご紹介します。
中心部ゾーン(滞在時間の目安:1.5〜2時間)
ここはスコータイ王朝の宗教・政治の中心地。
多くの遺跡が集まり、歴史公園のハイライトとなるエリアです。
主な見どころ:
- ワット・マハータート:スコータイ最大級の寺院。スリランカ様式の仏塔が印象的。
- ワット・サシー:池に浮かぶように建つ美しい寺院。
- ラームカムヘーン王像:タイ文字の生みの親として知られる王の像。
北部ゾーン(滞在時間の目安:1〜1.5時間)
中心部から自転車で10〜15分ほど。観光客が比較的少なく、静かに過ごせる落ち着いたエリアです。
主な見どころ:
- ワット・シー・チュム:巨大な座仏像「プラ・アチャナ」が堂内に鎮座。
- ワット・プラパーイルアン:クメール文化の影響が色濃く残る古い寺院。
西部ゾーン(滞在時間の目安:1〜1.5時間)
自然に囲まれた丘陵地帯に点在する遺跡群。
保存状態はやや劣りますが、素朴な雰囲気と静けさが魅力です。
主な見どころ:
- ワット・サパーンヒン:小高い丘の上に立つ立仏像。登ると遺跡全体を見渡せます。
- ワット・アサーオ:森林に包まれた静寂の中にある遺跡。
南東部ゾーン(滞在時間の目安:1時間〜)
中心部に比べて観光客が少ないため、静かに巡れる穴場スポットです。
仏塔や僧院跡が点在し、スコータイ後期の特徴も見られます。
主な見どころ:
- ワット・トラパントーンラーン:池に囲まれた古い寺院跡。
- ワット・チェーディースーン:保存状態の良い仏塔が残っています。
おすすめルート
順序 | ゾーン | 特徴 | 所要時間目安 |
---|---|---|---|
① | 中心部 | 公園のハイライト。最も充実した遺跡群 | 1.5〜2時間 |
② | 北部 | 巨大仏像と静寂の雰囲気が魅力 | 1〜1.5時間 |
③ | 西部 | 自然と一体化した静かな遺跡群 | 1〜1.5時間 |
④ | 南東部(余裕があれば) | 穴場のエリアで静かに楽しめる | 1時間〜 |
スコータイ歴史公園の見どころ

13世紀から15世紀にかけて繁栄したスコータイ王朝の旧都。
スコータイ歴史公園はスコータイ旧市街にあります。
面積は約70平方キロメートルと、東京ドーム1500個分に相当。
遺跡の数は約200カ所。
すべてを巡るには何日もかかってしまうでしょう。
ここでは、スコータイ歴史公園のおすすめのスポットを厳選してご紹介します。
ラームカムヘーン像
スコータイ王国は、もともとクメール帝国(カンボジアのアンコール王朝)の支配下にあった土地のひとつでした。
13世紀の半ばごろ、「シー・インタラーティット王(第1代)」がクメールの支配から独立して、スコータイを「独立した国」としてスタートさせました。これがスコータイ王国のはじまりです。
歴史公園の中心部にある高さ3メートルほどの坐像は、スコータイ王朝第3代の王・ラームカムヘーン大王の姿をかたどったもの。
ラームカムヘーン大王はスコータイ王国を広げ、文化を発展させたので「スコータイの建国者」と呼ばれています。
周囲には彼の功績を記した石碑が複数配置されています。
スコータイ文字の発明者としての知的な一面と、民の暮らしを守った王としての姿がそこに描かれています。
ワット・マイ
「ワット・マイ」は地図上では小さく目立ちませんが、実際に訪れてみると、心に深く残る場所でした。
周囲には大きな寺院もありますが、ここだけは木々に囲まれてひっそりと佇んでいます。
「ワット・マイ」という名前はタイ語で「新しいお寺」という意味。
しかしここは何百年も前に建てられた遺跡です。
名前の“新しさ”とは裏腹に、風化したレンガや柱の跡が歴史の深さを感じさせてくれます。
仏堂(ウィハーン)跡の中に入ると、かつて仏像が安置されていたであろう台座が残っていて、そこから静かに空を見上げるような視点が印象的です。
今では仏像は失われていますが、その場所に立つだけで、かつて人々が祈りを捧げていた光景が目に浮かぶようです。
観光客が多い有名な遺跡とは違い、ワット・マイはとても静かで、まるで時が止まったような空気に包まれています。
鳥の声、風に揺れる木の葉の音、そして自分の足音だけが響く空間。
そんな場所に身を置くと、にぎやかな世界から少し離れて、自分自身と向き合える気がしてきます。
ラームカムヘーン国立博物館
遺跡を訪れるなら、やはり知識があるかないかで体験の質がまったく違います。
そう実感したのが、「ラームカムヘーン国立博物館」です。
館内には仏像や陶器、当時の生活用品が多数展示されており、特に「スコータイ陶器(サンカローク焼き)」の美しさには驚きました。
装飾が細かく、魚や鳥、花をモチーフにした模様が、驚くほど繊細に描かれています。
見た目だけでなく、触れることができたらさぞ感触も滑らかだろうと想像させてくれました。
また、館内にはラームカムヘーン碑文のレプリカもあり、文字の意味や当時の社会構造についても詳しく解説されています。
歴史を学び、背景を知ったうえで再び遺跡群へ戻る。
それまでただの「石の遺跡」だったものが、生きた物語を語る存在に変わっていることでしょう。
ワット・シーサワイ
スコータイ様式の中に突如現れるクメール様式の建築。
それが「ワット・シーサワイ」です。
この寺院はスコータイ王朝以前のクメール時代に建立され、もともとはヒンドゥー教の聖域でした。
中央にそびえる三基の仏塔は、どこかアンコール・ワットを思わせる重厚な雰囲気をまとっています。
まず目に入るのは、3つの大きな塔(プラーン)が並ぶ姿。
まるでカンボジアのアンコール遺跡を思わせるような、独特なデザインです。
これは実は、もともとヒンドゥー教の寺院として建てられたから。
後に仏教に改修されて今の姿になったそうです。
このプラーンの様式は、クメール建築の影響を色濃く残していて、他のスコータイの仏教寺院とは一線を画しています。
彫刻や装飾も細かくて美しく、建築に興味がある人にはたまらない見どころです。
遺跡の中に入って近づいてみると、3つの塔はそれぞれ微妙に形が違っていて、それぞれの塔が祀っていた神様の違いを感じさせます。
ヒンドゥー教ではシヴァ神・ヴィシュヌ神・ブラフマー神という三大神がいて、この3塔はその象徴とも言われています。
ワット・シーサワイは、スコータイにおける宗教や文化の混ざり合いを感じられるとても貴重な場所です。仏教とヒンドゥー教、そしてクメールとタイの建築様式。
その交差点に立ってみると、スコータイがただの古都ではなく、多様な文化が息づいていた場所だということが実感できます。
ワット・トラパングーン
公園を散策していると、池のほとりに静かに佇む「ワット・トラパングーン」に出会います。
大きな遺跡ではありませんが、ふと足を止めたくなるような、どこか落ち着いた雰囲気を持っています。
このワット・トラパングーンは、13世紀末から14世紀初めごろに建立されたと考えられている寺院です。
名前に含まれる「トラパン」は「池」、「グーン」は「銀」という意味で、つまり「銀の池の寺院」と訳されます。
実際に、寺院のすぐ隣には小さな池があり、その水面に映る仏塔の姿がとても印象的でした。
遺跡には、スコータイ様式と一部にスリランカ様式の影響を感じさせる仏塔が残っており、当時の仏教建築の特徴がよく表れています。
中央の仏塔はやや崩れかけているものの、台座部分にはレリーフの痕跡があり、かつての荘厳さを想像させてくれました。
また、小さながらも整った礼拝堂からは、スコータイ時代の典型的な建築様式を見ることができました。
スコータイ時代の寺院の多くは、王室や貴族によって建立されたとされます。
ワット・トラパングーンも、規模は小さいながら、地元の有力者や信仰心の篤い人々によって建てられた寺院だった可能性が高いと考えられています。
ところどころに残る彫刻や装飾の跡から、かつての栄華がほんのり伝わってきました。
周囲には大きな木々が茂っていて、木陰で一息つくのにもぴったりの場所。
自転車で回っている途中、ちょっと立ち寄って休憩するには最高のスポットだと思います。
ワット・トラパントーン
ワット・トラパントーンは歴史公園の中心部に位置していて、地図で見るとちょうど池に囲まれた小さな島のような場所にあります。
周囲をぐるっと水に囲まれたその佇まいは、どこか神聖で、静かな雰囲気が漂っていました。
ワット・トラパングーンが「銀の池の寺院」であるのに対して、ワット・トラパントーンの「トラパン」は「池」、「トーン」は「金」を意味するので、直訳すれば「金の池の寺院」。
実際、池の水面に遺跡が映る様子はとても美しく、朝や夕方には光の加減で黄金色に輝くように見えることもあるそうです。
この寺院はスコータイ時代に創建されたと考えられていますが、今もなお現役の信仰の場として機能しているという点で、他の遺跡とは少し異なる存在です。
池の中央に建てられたこの寺院は、特にロイクラトン(灯籠流し)の際に多くの人で賑わいます。
さらに、この寺院にはスコータイ時代から続く伝統的な托鉢儀式「タック・バート・テーウォー」の舞台としても知られています。
この儀式は、タイの仏教カレンダーで特別な日に僧侶たちが托鉢行列を行うもので、多くの地元の人々がこの寺院に集まるのだとか。
私はちょうど準備中のロイクラトンの飾り付けを見かけ、地元の人に話しかけてみました。
すると、「この寺院には願いが届きやすい」と教えてくれました。
つまり、ここは過去の遺跡でありながら、今も生きた信仰の場所でもあるのです。
周囲の自然も穏やかで、スコータイの「歴史と現在」が交差する瞬間を感じられる、そんな場所でした。
ター・パーデーン
ター・パーデーンは、スコータイ歴史公園の北エリア、中心部の城壁から少し外れた場所にあります。
遺跡としては比較的小規模で、観光客も多くはないのですが、歴史的にはとても興味深い場所です。
この建物は、スコータイ時代よりも前の、クメール王朝(アンコール朝)の影響を受けたヒンドゥー教の聖域だったと考えられています。
ここはスコータイがまだ仏教国家になる前、ヒンドゥー教の神々が信仰されていた時代の名残なのです。
建物自体は石造りで、かなり朽ちてはいるものの、玄武岩の壁面にはシヴァ神をはじめとするヒンドゥー教の神々を彫ったレリーフの痕跡が見られます。
まるでアンコール・ワットの小さな一部がここにあるかのようです。
私が訪れたときは、建物の中には入れなかったのですが、周囲をゆっくり歩いて眺めているだけでも、どこか異国に来たような不思議な感覚になりました。
静かな林の中にひっそりと佇んでいて、仏教寺院の荘厳さとは違う、古代の祠堂のような「祈りの跡」を感じさせてくれます。
スコータイ=仏教遺跡というイメージが強いかもしれませんが、ター・パーデーンはそれ以前の歴史、つまりこの地が多様な信仰の場だったことを物語る貴重な証人です。
スコータイが歩んできた歴史の深さや、多様な文化が交錯していたことを感じられる場所
きっと、仏教遺跡とはひと味違った「もう一つのスコータイ」に出会えるはずです。
ワット・ソラサック
最後にご紹介するのは、基壇を囲む象の彫刻が印象的な「ワット・ソラサック」です。
ワット・ソラサック(Wat Sorasak)は、スコータイ歴史公園の中心部、ワット・マハータートのすぐ北側にある小さなお寺です。
正直、最初に見たときは「小さいお堂だな」という印象でしたが、近づくにつれて驚かされました。
仏塔の基壇をぐるりと囲む“象の彫像”の存在感がすごいんです。
このワット・ソラサックは、西暦1412年(スコータイ王朝後期)に建立されたとされる仏教寺院で、建設当時の碑文が今も残っています。
特に目を引くのが、仏塔を支えるように配置された24体の象の彫刻。
今でこそ少し風化していますが、それでも力強く立つ姿は迫力があり、まるで仏塔を守る番人のようにも見えます。
象はタイでは非常に神聖な存在で、王権の象徴でもありました。
仏教の教えの中でも、象は「強さ」と「知恵」を備えた動物として大切にされています。
この様式は、「象が支える仏塔」として知られ、スコータイ後期やその後のランナー王朝にも受け継がれたデザインです。
実際、チェンマイのワット・チェディルアンなどにも似た構造が見られます。
ワット・ソラサックは大規模な寺院ではありませんが、スコータイ王朝の美意識や建築様式の特徴、そして信仰心の深さを感じられる貴重なスポットです。
象たちが何世紀にもわたって支えてきたスコータイの歴史を、きっと感じられるはずです。
北西部の遺跡

スコータイ歴史公園の北西部は山のふもとに位置し、瞑想と修行の地であります。
緩やかな丘陵地帯に広がっていて、緑が多く、自然と一体化した雰囲気。静寂で神聖な空気が漂います。
このエリアは、昔から出家者や修行僧のための“精神修養の場”とされていました。
町から離れ、静かで高台にあるため、瞑想や修行に適していたのです。
現在でも心が落ち着くような静けさがあり、まわりの自然とぴったりと溶け合っているのが魅力です。
丘陵地帯を登る達成感もあり、特別な場所に来たと感じさせてくれます。
ワット・サパーン・ヒン
山の上にひっそりとたたずむ「ワット・サパーン・ヒン」。
ここは「石橋の寺」という意味で、その名の通り、山道の途中には大きな石を敷き詰めた遊歩道が続いています。
頂上までは徒歩で15〜20分ほどかかりますが、登った先には高さ約12メートルの立像「パー・アター・ロット仏(アッタロット仏)」が、穏やかな眼差しで迎えてくれます。
朝日を背に静かにたたずむその姿は、まるでこの地の守護神のよう。
この仏像や山頂の寺院は、13世紀後半〜14世紀前半ごろに建立されたとされ、王族や高僧たちが礼拝や瞑想の場として用いたとも考えられています。
当時、自然とともにある信仰が重視されていたスコータイ王国において、「山」は神聖な場所でした。
ワット・サパーン・ヒンのある小高い丘も、まさにそうした信仰の対象だったのでしょう。
ワット・アラワット・ヤイ
「アラワット・ヤイ」という名称は、サンスクリット語由来で、「アラヴァタ(象)」「ヤイ(大きい)」という意味を持つとも言われています。
しかし遺跡そのものに象のモチーフが残っているわけではありません。
建築様式や遺構の配置から、スコータイ王朝後期の仏教寺院と考えられています。
かつては僧侶たちの修行の場や、地域の人々が日常的に礼拝に訪れる寺院であったとされ、荘厳というよりも素朴で実用的な構造が目立ちます。
主堂跡には柱の土台や壁の一部が残っており、当時の礼拝空間の広がりが想像できます。
かつてはこの中に仏像が安置されていたと考えられています。
仏塔跡は小ぶりながらもスコータイ様式を受け継いだ円形の基壇が見られ、蓮の蕾を模した上部構造が崩れかけながらもかすかに残っています。
壁面の一部には漆喰の跡が残り、かつて彩色や装飾が施されていたことを物語っています。
周囲には草木が生い茂り、遺跡全体が自然と一体になったような静けさがあります。
ワット・プラユーン
目に飛び込んで来たのは、高い仏塔でした。
まわりはとても静かで、まるで過去にタイムスリップしたような気持ちになります。
この寺院の名前「プラユーン」は、「立っている仏」という意味を持ち、かつては立像の仏像が安置されていたと考えられています。
スコータイ時代の王たちは、仏教の教えをとても大切にし、こうした寺院を建てることで徳を積もうとしていたそうです。
現在は、遺跡の一部しか残っていませんが、その静けさの中に、かつてここが祈りの場所であったことを感じ取ることができます。
ワット・パーマムワン
この遺跡の名前は、「マムワン(マムアン)」、タイ語で「マンゴー」を意味する言葉と関係があります。
もともとは「マムアンの森のお寺」という意味を持っており、自然の中にひっそりと建てられていたことがわかります。
ワット・パーマムワンは、13世紀〜14世紀ごろ、スコータイ王朝の王族たちによって仏教の学びの場として利用されていたと考えられています。
特に注目されているのは、この寺院が上座部仏教(テーラワーダ)と密教的要素の両方を取り入れていたという点です。
かつてこの地では、スリランカから伝わった上座部仏教が盛んに学ばれましたが、一部の王族や修行僧は密教の儀式や瞑想修行も実践していたといわれています。
そうした思想的な交流が、この場所に残っているのです。
いま訪れると、建物の構造やレリーフの跡などから、当時の宗教活動の様子をほんの少しだけ想像することができます。
遺構は控えめで、派手さはありませんが、学びと祈りの場としての「空気感」が残っている場所です。
北西部の魅力は、なんといってもその“静けさ”と“素朴さ”。
人が少ない分、自分だけの時間を持ちながら、かつての人々が見たであろう景色と向き合える場所です。
歴史書には載っていないけれど、スコータイの人々が大切にしていた「祈りの風景」が、いまもそっと残されています。
南東部の遺跡

南東部は地理的に比較的平坦で、田畑や村の近くにある場所が多いです。
緩やかな丘陵地帯に広がっていて、緑が多く、自然と一体化した雰囲気が特徴的。
静寂で神聖な空気が漂います。
このエリアは、地域住民に身近な信仰の場だったとされています。
王族のための巨大な寺ではなく、日常の中で人々が祈りを捧げていた場所です。
素朴な雰囲気で、生活とともにあった信仰を感じられる遺跡。
静かな中にも温かみがあります。
ワット・コーンレーン
ひっそりと佇むレンガ造りの基壇が印象的な寺院跡です。
周囲は木々に囲まれており、鳥のさえずりだけが響くような静けさがあります。
「コーンレーン」はタイ語で「土を積み上げた」というような意味を持っていて、実際この寺院は、人工的に盛られた小高い土台の上に建てられています。
遺跡全体の構造もとてもシンプルで、当時の人々が信仰心を持って地道に造り上げた祈りの場だったことが伝わってきます。
建造時期ははっきりとはわかっていませんが、13世紀末から14世紀初頭、スコータイ王朝が最も栄えていた時代に建てられたと考えられています。
仏塔や本堂の基壇が残されており、仏教の礼拝に使われていたことがうかがえます。
「盛土の上に寺院を建てる」という様式は、スコータイ時代の建築の特徴のひとつ。
自然の地形と信仰が融合した空間づくりが行われていた様子を見ることができます。
ワット・ウィハーントーン
「ウィハーン(Wihan)」とは、仏像を安置し礼拝するための建物のことで、信者が集まって祈りを捧げる空間です。
そして「トーン(Thong)」は「黄金」を意味します。
つまりこの寺院の名前は「黄金の礼拝堂」と訳され、かつては金色に輝く本尊仏や装飾があった可能性を示唆しています。
ワット・ウィハーントーンの正確な建立年代は定かではありませんが、スコータイ王朝中期(14世紀ごろ)に建てられたと考えられています。
遺跡には、本堂の土台や柱の跡が残されており、かつては立派な屋根が架かっていたことがうかがえます。また、礼拝堂の背後には小さな仏塔もあります。
保存状態は完全とはいえませんが、その朽ちた風合いが、むしろ「時間の重み」を感じさせてくれます。
壁の一部や柱の基礎部分を見ると、そこに何百年も前の人々の祈りや営みが息づいていたことが、肌で感じられるようでした。
ワット・ムムランカー
仏塔と僧坊跡が残るこの場所も、スコータイ時代の修行僧たちの生活を感じさせる遺跡です。
レンガ造りの仏塔は崩れかけている部分もありますが、自然と共存するその姿がとても美しく見えました。
スコータイ王朝時代の仏教寺院のひとつで、現在は基壇と一部の構造物が残るのみの小規模な遺跡です。
名前にある「ムム(Mum)」ははっきりした意味が不明ですが、「ランカー(Langka)」はスリランカ(ランカー島)を指す言葉とも言われています。
これは当時のスコータイがスリランカ仏教の影響を強く受けていたことと関係があるのかもしれません。
スコータイ王朝(13〜15世紀)は、スリランカから持ち込まれた上座部仏教(テーラワーダ仏教)を国の中心に据えた国家でした。
王や高僧たちは、仏教の正統性を強調するため、各地に寺院を建立し、仏法を広めました。
ワット・ムムランカーも、そうした仏教布教の一環として建立されたと考えられています。
現在は大きな仏塔や本堂の跡が残っており、かつては礼拝堂の中に仏像が安置されていたであろう痕跡も見ることができます。
ワット・チャーンローム
「ワット・チャーンローム(Wat Chang Lom)」は、仏塔の基壇を囲むように並ぶ象の彫刻がとにかく印象的でした。
「ワット・チャーンローム」とは、タイ語で「象に囲まれた寺院」という意味です。
その名の通り、ここの仏塔の基壇は、ぐるりと周囲を象の彫像で囲まれているのが最大の特徴です。
ワット・チャーンロームは、13世紀末から14世紀初頭にかけて建立されたと考えられています。
当時のスコータイ王朝では、仏教(とくにスリランカから伝わった上座部仏教)が国の中心に据えられており、多くの寺院が建立されました。
この寺院は、王が自らの功徳を積むため、また国家の仏教的な正統性を示すために建てたものであると伝えられています。
古代から、仏塔を象で支える構造は、信仰と王権の象徴そのものでした。
仏塔自体はスコータイ様式のベル型で、シンプルながらもどっしりとした存在感があります。
夕方に訪れると、斜めの光が象の身体に陰影を落とし、まるで像たちが今にも動き出しそうな生命感を帯びてくるのが印象的でした。
ワット・トラパントーンラーン
「ワット・トラパントーンラーン」は、スコータイ時代の芸術性と宗教観をじっくりと感じられる、知る人ぞ知る名所です。
この寺院の名前は、「細長い金の池の寺院」という意味を持ちます。
「トラパン」は池、「トーン」は金、「ラーン」は細長いという意味で、寺院の周囲にある細長い池に由来しています。
池の水面に映る遺跡の姿はとても静かで美しく、朝や夕方の柔らかな光の中では、とくに幻想的な雰囲気になります。
ワット・トラパントーンラーンは、14世紀ごろ、スコータイ王朝の全盛期に建立されたと考えられています。
この寺院で特に注目すべきなのは、「浮き彫り(レリーフ)」が施された仏伝図(仏陀の生涯の場面)が残されていることです。
スコータイ時代の浮き彫りは、宗教美術の中でも非常に高い評価を受けています。
仏陀が天界から地上に降臨する「三道宝階降下」の場面など、重要な教義を伝える浮き彫りが見られます。
近づいてじっくり見ると、細かな線や人物の表情までもが丁寧に彫られているのがわかります。
建築自体は他の大きな寺院ほど派手さはないものの、宗教的な物語を視覚的に伝える媒体として機能していた点で、非常に価値のある遺跡です。
石に刻まれた物語に、当時の人々がどんな祈りを込めたのか、想像するだけで心が静かに満たされていくようでした。
ワット・チェーディースーン
最後に訪れた「ワット・チェーディースーン(Wat Chedi Sung)」は、スリランカ様式の影響を受けた仏塔が特徴の寺院です。
シンプルなデザインですが、そのシルエットはどこか神聖で、他のスコータイの遺跡とは違った魅力を持っています。
この寺院の名前「チェーディー・スーン」は、直訳すると「高い仏塔」という意味で、その名の通り、かつては立派な仏塔(チェーディー)がそびえ立っていたと考えられています。
現在はその大部分が崩れ落ち、基壇や一部の構造物が残されている状態ですが、残された石の配置や土台からも、当時の壮麗さを想像することができます。
ワット・チェーディースーンの見どころの一つは、仏塔の土台に設けられた階段の痕跡です。
これはかつて仏塔に上るためのもので、重要な儀式の場として使われていたことを示唆しています。
また、周囲にはいくつかの小規模な祠堂跡もあり、僧たちの修行の場であったことが感じられます。
派手さこそありませんが、だからこそ、当時の人々の祈りや日常を想像しながら歩くことができる、そんな特別な場所です。
“幸福の夜明け”の記憶

スコータイ歴史公園を訪れたあの日から、ずいぶんと時間が経ちました。
それでも、あの朝靄の中にたたずむ仏像の姿や、石畳を踏みしめたときの足裏の感触、遠くから聞こえてきた鳥のさえずり……
そのすべてが今でも鮮明に心に残っています。
旅先で出会う風景は、時とともに記憶の奥に霞んでいくことが多いものですが、スコータイでのひとときだけは、なぜか特別でした。
ふとした瞬間に、ふわりとよみがえる。
まるで、今でも私の心のどこかに静かに息づいているかのように。
この地を実際に歩き、その空気を感じ、その静けさに包まれてみると、「スコータイ」“幸福の夜明け”という言葉が、ただの詩的な表現ではないことがわかります。
華やかな演出や観光地特有の喧騒とは無縁のこの場所には、何か特別な「始まりの気配」が漂っているのです。
そんな静かな時間の中で、自分が何に心を動かされるのか、何を大切に生きていきたいのかを、ふと見つめ直すきっかけをくれる。
スコータイとは、そういう場所でした。
まとめ
この遺跡群には、「過去のもの」として遠くから眺めるような距離感はありません。
むしろ、タイという国の文化や価値観のルーツが、今なおこの地に息づいていることを強く実感させられます。
文字を生み、仏教を国の礎とし、芸術と知恵を大切にしたスコータイ王朝の精神は、今もなお現代のタイ人の心の中に流れ続けているのだと、現地の人々と触れ合う中で気づかされました。
壮大な建築物や有名な観光スポットでは味わえない、“静かさの中の贅沢”が、ここにはあります。
誰かに語りかけるでもなく、ただ遺跡の石にそっと触れ、池を渡る風に耳を澄ませる。
忙しい日常の中で、つい流されてしまいがちな私たちにとって、このような「静けさに満ちた旅先」は、きっと必要な時間なのだと思います。
でも、その静かな時間こそが、心の奥にじんわりと残り、後々まで支えになってくれるものなのです。
どの季節に行っても、それぞれの美しさと発見があり、きっとあなた自身にとっての“幸福の夜明け”を感じる瞬間があるはずです。
その旅の記憶はふとした瞬間に思い出され、日常のなかであなたをそっと支えてくれるでしょう。
そんな旅は、人生をより豊かに、より優しくしてくれると、私は信じています。
どうか、あなたの旅が素敵なものになりますように。